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プロローグ
「お兄ちゃん。サンタさんって、いつ来るのかな?」
ーーあの日の事は、全てとは言わないまでも、記憶に強く残っている。
親に急かされて、今では信じられないくらいの早い時間に、部屋へと戻る。俺と、当時まだ元気だった妹は布団を直ぐに被った。
冷え込みが強かったのか、埼玉では珍しく雪が降っていた。所謂ホワイトクリスマスだ。
「子供が寝てから来るんだから、11時とかじゃないか?」
枕元には、サンタさんへと綴ったプレゼントをお願いする手紙と、それを入れる靴下。
それが俺と妹の二人分並べられていた。
妹のはピンクの可愛らしい靴下で。俺のは外で遊んでくたくたになった白の靴下。
あの頃の俺はサンタクロースの存在を微塵にも疑っていなくて、こんな靴下でプレゼントを貰えるんだろうか? なんて疑問を抱いていた位だ。
「ねぇ、もう眠いよー」
「あともうちょっとで10時半だぞ。もしかしたらもうすぐ見えるかも知れないぞ」
「……うん」
妹からの返事はそれっきり。少しの間も置かずに隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
その心地よさそうな音に、俺も意識を手放しそうになってーー叩き起こされる事になる。
「晃! 沙弥! 起きなさい! 早く!」
あれほど早く寝ろ! と言っていた母さんに、だ。
そこから先はただただ眠かった。服を着替えて、沙弥の手を引きながら親の車に乗る。
雪化粧で趣を変えた街を綺麗だな、何て子供二人が無邪気に話すなか、母さんは終始無言で。
車を走らせること20分、深夜でもすうっと浮かび上がる白い建物。病院へと到着するなり、無言で急かされてその中へ。
この辺りで、記憶が急に雲がかったかの様に細切れになる。
すすり泣く妹の声。
無言で強く抱き寄せる母さんの腕。
それとーー白い世界。
これが20才となった今でもまだ良く覚えている当時の記憶。今から13年前。俺が7才の頃。
俺に父さんが居た、最後のクリスマスだった。
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