偽録

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―都市 第三区域―  4月、未だ冬の名残りか肌寒い季節の中、東條院 奏は何時もの日課に励んでいた。 「我が理を汝に告げる。遍く願望を此処に、我は悪鬼を打ち払う者、汝は我の盟約の元に従いて、この世に受肉を果たす也。この世を混沌から解放し……」  透き通るような声が部屋に響き渡る。  部屋の中央、机の上に置かれた古くボロボロとなった紙には、奏の血によって術式が描かれ、透き通るような声と共に淡い光を発している。  彼女が行っているのは使い魔を召喚する為の儀式。  人間にとって脅威となる妖怪と対等に渡り合う為に、東條院家に代々受け継がれてきたその儀式を以って使い魔を召喚し、使い魔に魔力を供給する事で使役する。  無論、使い魔と言っても、元々は妖怪であった者が多く、妖怪を使役する事自体が不可能とされていたのだが、奏の家系は、その不可能を可能にする為の術式を、長い年月をかけて完成させるに至ったのだ
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