懐の中の綻び

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びっくりして振り向くとそこにはドアにもたれかかった七夜がいた。 「鍵は私が管理しているんです。一本無くなっている事に気が付きました。それにせっかく焼いたパンも少々数が足りなくて・・・」 ニヤリと嗤いながらささやくような低い声で言った。 「数えているんですか?」 「当然です。屋敷の全てを任されているのですから」 「聖太郎氏は貴方に全幅の信頼を寄せていたんですね。有栖の未来も託されているんですか?」 「殿については信頼されていたかどうかわかりかねますね。なんせ私は『愛人の子』ですから」 「同じ屋根の下に住んでいて辛くなかったですか?お母さんの舞子さんも・・・」 「辛くなかった・・・とは言えませんね。本当言うと辛かったですよ、靫さまの当たりもキツくて母は苛められていましたから」 「じゃあなぜ柚木家の執事になったのですか?普通なら嫌になって飛び出したりするものでしょ?お母さんも心労で亡くなったのではないんですか?」 「いい質問です。そう、ストレスで精神的におかしくなり結局、精神病院で亡くなりました。殿は眩しい存在でした。私と違って父に愛され、母がいて・・・疎まくなかったと言ったらウソになる。  こんな家出ていきたかったですよ。何の愛着も無いし、むしろ嫌な思い出だけ詰まっていると言っていい。あと一つ情報をあげましょう。  うちの母の家系もイタコの系統で『口寄せ』が出来るんですよ・・・母も私も・・・闇の世界には縁がある」 「七夜さん!あなたいったい・・・」 「今日のお話はここまでにしましょう」 「なぜ?」 「こんなところにいられては困ります。火事が起きかねない。執事としての忠告です。それと有栖川結さんの写っているアルバムは持って行っていいですよ」 「七夜さんなんでそれを・・・」 「貴方がたと甲賀の里までご一緒したでしょ?聞き耳を立てるくらい朝飯前です」 朝飯前なはずがない。あの里で七夜は部外者として他の家に監禁されていたのだから・・・七夜と言う人物がますますわからなくなっていた。
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