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2-01
微睡の中で意識が流されるように戻ってくる。夜更かしした後の日曜の朝の感覚に似ているだろうか。やたらと身体が揺れている事に気づく。薄く瞼を開けると足が見えた。男の足だ。やや使い古された運動靴が見え隠れする。あぁ、そうか担がれているのかと、僕は緩慢な思考で気が付いた。
「悪いわね。それ持ってもらっちゃって」
「連れを荷物みたいに言うのはどうなんですかね……」
玄架はそういう娘ですから。僕は口に出さず笑う。もう少しこの会話を黙って聞いていたい。一真はどちらかと言うと常識人っぽい感じがする。一般人は玄架相手にどんな会話をするのだろう。
「いいのよ。それと敬語とかいらないから。私にも苑樹にも。慣れない喋り方じゃ疲れちゃうでしょう?」
「確かに……って、慣れてないってなんで分かったんだ?」
「それはー、勿論なんとなく」
そこへ別の声が割り込んだ。
「それで、結局あなた達は何者なの?」
月と言ったか。澄んだ高い声の少女に、玄架は何度も言わすんじゃないと言いたげに答える。
「魔術師だってば。黒魔術師――逆に聞くけど、あなたは陰陽師って言ったわよね。陰陽師って一体何なの?」
「陰陽師とは――……光と影に一線を引く者」
「それだけじゃ、いまいち分かんないんだけど」
月の言葉は毅然とはしているが、具体性に欠ける。元々、説明する事自体があまり得意ではないのかもしれない。少し間を置いてから月は再び切り出した。
「まず、私達の住む世界は二つに分けられる。陰の界と、陽の界の二つ。今私達がいるのは陽の界、目に見えるものが存在する世界。そして、もう一つが陰の界。こっちは普通は目に見えない物――たとえば、霊魂だとか、人間の持つ負の感情の具現である物の怪が棲む世界」
先程、遭遇したような怪物が物の怪に当たるのだろうか。玄架は成程成程と頷いた。
「あなたの使うそのよく分からない術は? その陰の界じゃないと使えないの?」
「どちらでも使える。そもそも二つは別個の物じゃなくて、二つで一つの世界だから」
「それで、さっきの光と影に一線を引くってのは?」
月は再び黙り、ややあってから再び話し出した。
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