第2話

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「陰の界は、行き場を失った負の感情を受け入れる器のようなもの。正確にはそれだけじゃなくてもっと複雑な造りがあるのだけど、そこは今は省くとして」と、言葉を切る。その間は決して、言葉が見つからない故のものではない。“空気が変わった”とでも言えばいいだろうか。先程と口調はまるで変わらない筈なのに、明らかに何かが変わったと思わせる空気を纏いつつ月は続けた。 「その陰の界からこちら側、陽の界へと侵入する物の怪を討つ。それが、私達陰陽師の仕事」 「成程ね、つまり色のある世界と真っ黒な世界があると思えばいいわけ、ね。」  その言葉に自虐的な意味が込められた事に、月はさりげなく気が付いたようだった。勘のいい少女だ。一真の方は気付いていない様子。こちらは流石普通の感覚だ。褒めているのか貶しているのかは受け手の感覚によって変わるだろうけど。 「黒架の言う魔術師と言うのは?」 「文字通り、魔術を使う人間と思ってくれればいいわ。あれよ、MP消費して魔術を使うみたいな事をイメージして貰えればOK」  こちらは分かりやすいが、雑である。初めて説明された時もそうだったが、相手は相手で陰陽師というきちんとした(?)術者だ。畑こそ違うかもしれないが、あんまり雑な説明で馬鹿にされやしないだろうか――まぁ、別に僕が気にするような事でもないか。  だが、しかし月の反応は予想の斜め上をいく鈍さがあった。 「……MPって何?」 「何? ゲームとかやった事無いの?」 「つまりは、燃料みたいなもんだろ。陰陽師で言う所の霊気の事を言っているんだと思うぞ、月」  すかさずフォローに入る一真。実に自然な入り方だが、普段から苦労させられているのだろう。何となく親近感が湧いた。 「そうね。呑み込みが早くて助かるわ。それで、その“燃料”の事を私達は魔力と呼んでいるわ。この魔力ってのはね、インクみたいなものなの。世界には当然予め定まった法則がある。重力の法則に従って木からりんごが地面に落ちるとか、そんな当たり前の法則ね。魔力はその当たり前の法則を塗り替えてしまうわけ」  地面に落ちる筈のりんごが宙に浮き続ける。法則を塗り替える事でそんな事も出来る。
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