0人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
さて、ここはルースラント王国の僻地にある、小さな村「グリャーイ・ポーレ」……。村は山のふもとのやせた土地にあり、村人は小規模な農業や林業をやったり、川で魚をとったりしながら、細々と生計をたてていた。
ところで、最近、この村に、みすぼらしい茶色のコートを着て分厚い眼鏡をかけた、27歳のやせぎすの大学院生が住み着くようになっていた。名をピョートルという。ピョートルは「精霊が起こす魔術」の研究が専門の、サライ大学の大学院生だった。だが、ピョートルが師事していた教授が、大学内の権力争いに敗れて大学を追われたために、大学にいづらくなったピョートルは、構想を練っていた博士論文もそっちのけにして、ふらりと旅に出て、たまたまこの村に立ち寄ったのだ。
「ん~ん…平和な村だなぁ…。」
ピョートルがそうつぶやいた時……。
ヒュウンと風をきるような音をたてて、石が飛んできた。だが、ピョートルは紙一重でかわす。ふと、石の飛んできた方角を見やると、数人の子供が目についた。いずれも、着古した褐色の上着を着ており、貧しい階層だと一目でわかるいでたちだった。
「ちっ…よけやがったか。」
からかうような口調で言う。ピョートルは立ち上がると、子供たちに向かって言った。
「なんで、こんなことするんだ?危ないじゃないか。」
「おまえが、よそ者だからだ!『よそ者を村に入れるな!』って、父ちゃん、母ちゃんに言われてんだよ!」
「どうして、よそ者を村に入れちゃダメなんだい?」
ピョートルは、ずれた眼鏡を直しながら尋ねる。
「よそ者は村に災いをもたらすからだってさ。」
「災い?どんな災いだ?」
「よく知らねえけど、村が滅ぶくらいの災いだってさ。」
子供は、ぶっきらぼうに答えた。
(ふむ…民間の伝承なんか、あてにならないものだが…ここは、この子の言う通りにしといたほうが良さそうだ。)
「わかった。今日のところは、お兄さんは帰るとしよう。」
ピョートルは、そのままグリャーイ・ポーレの村を出た。だが、村を出たところで、泊まるあてもない。しかたなく、雨露をしのげそうな、村の近くの修道院跡で寝袋を広げて寝ることにした。その夜遅く…。
「…我が民族の祖先であり、偉大なる守り神であらせられる、女神アリーナよ……我ら一同を末永くお守りください。国王の魔の手から。その他、ありとあらゆる災厄から…。」
最初のコメントを投稿しよう!