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第1話 #2
だが、その夜…ピョートルが例の神官の夢に捕えられる前に、バイコヌール大学の構内で事件が起きた。発端は、シューシューと息を吐きながら、ズルッズルッと蛇がはいまわるような音をたてて、構内を動き回る不気味な音だった。二人は、その音で目をさましたのである。
「ピョートル…あの音、聞こえてる?」
「うん。これは、何か巨大な生物が動き回る音だ。」
同時に、構内を何人もの衛兵が走り回る足音が聞こえる。
「大変だ!『エルゾ』が目覚めたぞ!」
「何ぃ!?やつは危険だから、ずっと薬で眠らせておけと言っただろうが!飼育班は何をしていたんだ?あのキメラも途中で目をさましてしまうし…!」
そうした中、リーザはニヤリと不敵に笑った。
「うふふ…考えようによっては、これは逃げ出すチャンスかもよ。今動き回ってるのは、魔術で造られた生物と考えていいわ。なら、そいつが衛兵どもを蹴散らしてくれればいい…。」
「でも、その後はどうやって聖カレオス寺院まで行くんだ?馬車は、もうないぞ。」
「心配ご無用!ここの衛兵が仕事で使ってる馬車がどこかにあるはずだから、それを一台いただくのよ!」
やがて、ピョートルとリーザの監禁されている物置の前まで来ると、その生物は動きを止めた。だが、止まったのは、ほんの一瞬だけで、その直後には、衛兵たちが逃げまどう足音や悲鳴が聞こえた。同時に、物置の出入り口を見はっていた衛兵が、逃げ遅れてバリバリと食われる音がした。
「…ひっぎゃあああっ!!…痛えよぉ…!!」
衛兵が悲鳴をあげながら食われると、生物は急に動きを止めた。そのまま、二人の監禁されている物置の前で、じっとたたずんでいる。
「…どうやら、私たちが敵か味方か、確かめようとしてるみたいね。」
リーザがつぶやく。同時に、その生物に念話(テレパシー)を送り始めた。
(…落ち着いて。私たちは、あなたに危害を加えるつもりはないわ。)
(要するに、わしを薬漬けにして監禁した、あの衛兵どもとは違うと言いたいのか?)
(そうよ。私はアリーナ族の出身なの…。あなたも、ルーシ族に、いいように使われてきたんでしょ?なら、立場は同じよ。)
(ふむ…そなたの脳波には、アレクサンドル・マフノーと同じ波長が感じられる。)
(アレクサンドル・マフノーは、私の兄です。各地の少数民族の文化を研究していた、バイコヌール大学法学部の学生です。)
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