第1話 #2

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(そうか。大学内でいじめられていた、アレクサンドルの妹か…。グリャーイ・ポーレの村中から学費をカンパしてもらって大学に通っていたアレクサンドルが在学中に死んだから、だいぶ苦労しただろう。村人からも、『なんで志半ばにして死んだ!?』みたいに言われただろうしな…。) (でも、なんで、あなたが兄さんのことをそんなに詳しく知ってるの?) (わしを子供の頃から育ててくれたのが、アレクサンドルだからだ。わが種族は、狩猟民で少数民族であるチュワシ族に、天然痘の特効薬の材料として飼われてきた。だが、わしは特異体質で、わしの体からは天然痘の特効薬が作れないとわかったために、彼らの居住地域の近くの山中に捨てられていたのを、アレクサンドルに拾われ、実の子供のように育ててもらった。わしは種族の中で唯一、知能が高く、念話が使えるという変種だったにもかかわらず、だ。人間なら、念話が使える生物を嫌うにもかかわらず、な。だが、わしの血が、あらゆる呪術の解除に効果があると知るや、医学部のルーシ族の教授どもは、アレクサンドルから、わしをとりあげて薬漬けにして、自分らのモルモットにしようとした。だから、前回、たまたま薬がきれて目覚めたときに、大学と学生街を破壊して暴れまわったのだ!) (なら、私とピョートルを助けてくれる?今、魔術封じの手袋をはめられてて、魔術が使えない状態なの。) (わかった。ちょっと待ってろ!それから、わしのことは、『エルゾ』と呼んでくれ!)  そう言うと、エルゾは物置の扉に体当たりした。扉はひしゃげて壊れて開いた。  ピョートルは、あらためてエルゾを見ると、その不気味さに震えあがった。巨大な蛇のような体躯と、口にのこぎりのような牙が生えているうえに、触角がはえているのだ。おまけに、体中のうろこが、ぬめぬめと光っている。 (さあ…二人とも、わしの姿におじけづくのはわかるが、早く背中に乗れ。じきに強力な魔術を操れる衛兵が来るぞ。) こうして、ピョートルとリーザは、おっかなびっくりエルゾの背に飛び乗った。エルゾはしきりにシューシューと息をはきながら前進する。やがて、五人の衛兵が、魔術を使う態勢を整えて、エルゾの前に立ちふさがる。 「今だ!攻撃開始!」 衛兵たちはエルゾに向けて、一斉に魔術を放つ。だが、エルゾのうろこで魔術は吸収されてしまい、効果がない。
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