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第1話 #3
(諸君らも、うすうす気づいているかと思うが、特異体質であるわしの体からは、あらゆる呪術に効く薬が作れる。わしの体液を、諸君らの体である『水』と混ぜあわせれば、領主サルウィンの呪術を解除できるぞ!)
精霊たちはザワザワと相談した末に、言った。
(ナラバ、最初ニ、オマエカラ叩キ潰シテヤル!我ラ全員ノ体液デアル『水』ト混ゼ合ワセルニハ、オマエ一人分ノ血ガ必要ダ!サア、前ニ出ロ!)
エルゾは言われるがままに、前に進み出た。
(さらばだ…リーザ、ピョートル、アリョール、オーウェル…。わずかな間だったが、おまえたちと知り合えて、一緒に旅ができて、実に楽しかったぞ。)
(ダメ…エルゾ、あなただけが犠牲になっちゃダメぇ…!)
リーザが念話で叫ぶ。
(わしを気づかってくれるのは嬉しい。だが、おまえたちの使命は、『トゥーラ』という女子を救うことではなかったか?わしは、そのために命を捧げるだけだ。決して、わしのことを、かわいそうだと思わないでほしい。わしは、女神アリーナの同族になった身だ。同族であるリーザやトゥーラのためには、いつでも死ぬ覚悟がある。)
そうこうしているうちに、エルゾの上に津波がごうごうと押し寄せてくる。
「いやあぁ…エルゾぉ…!」
リーザは泣きながら駆け出そうとするが、ピョートルがリーザを後ろから、はがいじめにする。
「ダメだ、リーザ…今、エルゾの所へ行ったら、君まで津波に呑まれてしまう。」
「でも…。」
リーザはジタバタもがいて、ピョートルにあらがった。
やがて、津波がエルゾにたたきつけ、エルゾの肉や骨が砕け散る、いやな音がする。だが、その瞬間、エルゾはリーザのほうを向いて、牙をむきだしてニッコリと笑ったような気がした。
それから、しばらく、津波はバラバラに砕け散ったエルゾの体をジャブジャブと洗っていたが、やがて念話で嬉しい叫び声をあげた。
(オオオッ…何トイウ効力ダ…!領主さるうぃんノ呪術ノ効果ガ、ドンドン消エテイクゾ!)
そして、水の精霊たちは領主サルウィンのほうに向き直ると、改めて叫んだ。
(今マデ我ラヲ呪術デ縛リツケテキタ悪辣ナル領主さるうぃんヨ!我ラハ最早、貴様ノ呪術カラ自由ニナッタ。今コソ、積年ノ恨ミヲ晴ラシテクレヨウゾ。クラエ!)
そのまま、精霊たちの津波は、先ほどの倍の高さから、領主サルウィンのもとに押し寄せる。
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