第1話 #3

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(ふん!我の呪術を解除したぐらいで、いい気になるな!『これだけの高さから押し寄せれば、バリヤーで防ぎきれない』だろうと思ったのだろうが、しょせん、津波は上から下に落ちるもの。我が津波より上に行けば、貴様ら水の精霊は、手も足も出まい。)  そう言うと、領主サルウィンは、二百メートルほど上空に舞い上がってしまった。その真下の地面を、津波が無意味にえぐる。 (馬鹿ナ…我ラノ渾身ノ一撃ヲカワシタダト…!?) (残念だったな。我は、もう一度、他の大陸に赴き、そこに住まう水の精霊たちに『服従の術』をかけて、我の手下にして戻ってこようぞ。それまで、首を洗って待っておれ!)  そう言って、領主サルウィンが亜空間を使ってテレポートしようとした瞬間…。  いきなり空が曇り始め、ガラガラと雷がなったかと思うと、大粒の雨が領主サルウィンに向かって降り注ぎ始めた。同時に、大粒の雨粒が領主サルウィンの手足をグッと掴み、亜空間へテレポートするのを妨げる。領主サルウィンがテレポートに集中している一瞬の隙をついて発動させた、俗に言う、「テレポート封じ」の術である。言うまでもなく、オーウェルが守護神カムチャダールの力を借りて、雨水の精霊たちを呼んできたのである。 (何じゃ、この雨水は…まるで意思を持っているかのように、我を拘束しようとする…。ぐわっ…!)  雨水は領主サルウィンの肩を掴んで拘束するのみならず、鼻や口からも入ってきて、領主サルウィンを溺れさせようとする。 (…ぐうっ…この程度で我を殺せると思うてか!この雨水の精霊どもに、我の『服従の術』をかけさえすれば…。) (そんなこと、この私がさせません!)  ふいに、女神アムールが現れて、きっぱりと言い放つ。 (この雨水の精霊たちには、私が特別に『抗魔術』の術をほどこしてあります。この術を事前にほどこしておけば、かけられる魔術に対するワクチンとなり、後からかけられる大抵の魔術ははねかえされてしまいます。あなたの『服従の術』も、かける前にワクチンではねかえされたら、効果がありませんよ。)  そのまま、雨水は領主サルウィンの鼻や口からゴボゴボと入り、溺死させていく。 (ぐがあぁ…この地上で最強の神の一人である我が、こんな下っ端の神ごときに負けるとは…!)  領主サルウィンは、断末魔の叫び声をあげながら、力尽きた。
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