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さて、領主サルウィンが死んだ後、リーザは水の精霊たちを、もともと居た大陸に戻そうとしたが、精霊たちは頑として拒否した。
(領主さるうぃんニ味方シタ輩ハ、断ジテ許スコトハデキン。我ラモ、ソノ『せるげい』ナル神官ヲ倒スタメニ、断固トシテ、ツイテイクゾ。)
(ダメよ。あなたたちの故郷の大陸には、広大な砂漠があるでしょう?あなたたちの役目は、そこに住まう遊牧民たちに、水と植物を与えてあげることなのよ。)
(シカシ…。)
(心配しなくても、私たちには、天気を操れる守護神カムチャダールや蒼天がいるわ。それに、これだけの量の水が道を行進していけば、洪水になるし。だから、あなたたちは、故郷に帰ってあげて…。)
ついには、頑固な精霊たちも、リーザの説得に負けて、故郷に帰ることになった。精霊たちは、大きな川に飛びこんで海に出て、海をめぐりめぐって故郷の大陸に着くと、地下水として砂漠へ流れこみ、そこに暮らす遊牧民たちの渇きを潤した。
その日の夜(といっても既に夜明け間近だが)は、一行は領主サルウィンとの死闘の疲れを癒すために、ぐっすり眠った。もっとも、リーザは眠れず、ずっと馬車の幌の外ばかり見ていた。
「リーザ、寝ないと、体がもたないぞ。」
見るに見かねたピョートルが声をかける。
「だって…エルゾが…エルゾがあぁ…。」
リーザは泣き出した。そのまま、ピョートルに抱きついて、わんわんと号泣し始める。
「エルゾは…大学時代の兄さんを知ってる、数少ない友達の一人だった…。私の知らない、兄さんのいろいろな顔を知ってた。笑顔も泣き顔も…。それら全てが、念話で伝わってきてたのよぉ。私、もっとエルゾと語り合いたかった。もっともっと、私の知らない兄さんを知りたかった…。」
リーザは、ピョートルの服のすそを、ギュッと掴み、目から涙をボロボロこぼしながら泣きじゃくった。
「兄さんはね…私が物心ついた時から、『長老の跡取り』として英才教育を受けさせられていて、私と遊ぶような時間なんか無かった。それでも、兄さんは、空いた時間をやりくりしたり、適当に口実を作って修行をエスケープしたりして、私と遊んでくれたのよ。私、兄さんから、いろいろなことを教わった。友達を思いやる心…敵を憎まず、許す心…その他、数え切れないぐらい、いっぱい優しさをもらったわ…。
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