第1話

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 また、ウラジミル師自身も、しばらくして脳を病み始め、連日のように幻覚にさいなまれるようになった。発病から半年後には、言語障害、右半身の麻痺が見られ始め、知能は著しく低下した。結局、医師団の治療の甲斐もなく、ウラジミル師は二年後に死亡した。死の直前には、別人のようにげっそりと痩せ細り、自力でベッドから起き上がることもできず、言葉もほとんど話せない状態だったという。国外にいる亡命者たちは、「ウラジミル師は、今までに殺した反革命分子たちの霊に、とり殺されたのだ。」と噂した。  その一方では、ヨシフ師が着々と権力を握るための準備を進めていた。ウラジミル師の病気が重いことを知ると、ヨシフ師は直ちにウラジミル師への面会を禁じて、病院に隔離し、病院を秘密警察の幹部たちに警備させた。ウラジミル師が将来、秘密警察を解体するつもりであることを知っていた幹部たちは、自ら進んでヨシフ師に協力し、ウラジミル師と外界との連絡を断ち切った。幹部たちは、一度手にいれた特権と権力を手放すつもりは、微塵もなかったのである。  同時に、ヨシフ師は、革命政権の機関紙「神の国」の編集者を抱き込み、連日のように、「神の国」紙上に、政敵であるレオン師を誹謗・中傷する記事を満載し続けた。思想統制によって革命政権を守るために、「神の国」以外の新聞が禁止されている状態にある以上、レオン師には反撃の手段がなかった。  誹謗・中傷は、「神の国」紙上だけにとどまらず、宗教青年団からも起こった。レオン師が同盟員の前で演説しようとすると、宗教青年団は必ず罵声を浴びせかけて妨害し、力ずくで演説を中止に追い込んだ。  ヨシフ師が、秘密警察だけでなく、「神の国」や宗教青年団の幹部たちの特権と権力を守る方向で、巧妙に味方を増やしていく一方で、革命の理念を説くことに終始していたレオン師は、軍以外に全く味方をつくることができなかった。「人は、革命の理念によって動くのではなく、己の利害や欲望に従って動く。」ということが、レオン師には理解できなかったのである。  毎晩遅くまで、汗だくになって、革命の理念を同盟員に説きつづけたにもかかわらず、レオン師は次第に政府内で孤立していき、最後にはヨシフ師によって国外追放に処された。 こうして、最大の強敵であるレオン師を追い払ったヨシフ師は、他の政敵たちに矛先を転じ、次々に粛清して、独裁を確立するに至る。
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