第1話

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「………嘘なものか!!あの当時、確かにわしは人民の幸福を望んだ……庶民から法外な重税を搾り取り、私腹を肥やす役人どもを憎んだ……その役人どもの差し出す賄賂の額によって官職を与える貴族どもを憎んだ………だからこそ、わしは民主的な法治国家を作ろうとしたのだ………だが、長い戦乱によって荒れ果てた国土を、独裁をやらずに、どうやって立て直すのだ……経済を、どうやって立て直すのだ……全国の至る所で、人民が、『パンをよこせ。』と叫んでいるのだ……秘密警察が取り締まらねば、国中で暴動が起きて、この国は再び戦乱の世に逆戻りしてしまうぞ………。」  ユリウス師の詰問に対して、ウラジミル師は絞り出すような声で反論するのがやっとだった。その声には往年の覇気が感じられず、心なしか、震えているようだった。 「ふん!!こんな地獄のような国が存続するぐらいなら、戦乱の世に逆戻りしたほうが、マシではないのか!!おぬしは経済が立ち直るまで独裁を続けるつもりらしいが、経済が立ち直るのは、いったい何年先だ!?十年先か?百年先か?……いや、そもそも、本気で経済を再建する気があるのか?聞くところによれば、秘密警察の幹部どもは、農民や商人に言いがかりをつけては、法外な金を搾り取っているそうではないか。いくら働いて稼いでも、かたっぱしから権力者に搾り取られるとなると、人民は働く気をなくしてしまい、経済の再建は遠のくばかりだぞ!!」  ユリウス師の舌鋒は鋭かった。さすがに、若いころはウラジミル師と一緒に政敵を糾弾しただけのことはある。 「……わしだって、それに対しては、何もしていないわけではない……あちこちに側近の者を密かに派遣して、幹部の汚職の実情を調査させたりしている。もし、汚職が発覚すれば、たちどころに厳罰に処している……。」 「そうは言っても、おぬしが処罰できているのは、汚職のごく一部に過ぎぬではないか!!汚職の多くは見逃されている、という事実を、どう考える!?」 「………。」  追及の手をゆるめないユリウス師に対して、ウラジミル師は、もはや、何も答えられなかった。 「黙れッ!!貴様ぁ……政治犯の分際で、言葉が過ぎるぞ!!」  ゴスッ……!!
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