第1話

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 なのに、なぜ、わしだけが裁かれねばならんのだ!?信仰を持っているわしが、『狂信者』と罵られているのに、信仰を持たず、革命のために戦わず、口先で理屈を言うだけの輩が、『良識ある者』として、人民に受け入れられる……。こんな馬鹿な話があるか……!!」  そこまで一気に言うと、ウラジミル師は、壁にもたれかかり、ため息をついた。わめき散らしたことで、多少、気分が落ち着いたらしい。 「ふ…ふふふ……わかっているさ…こうなったのも、皆、わしの政治が間違っていたからだということは……。己のやったことを反省できぬなど、聖職者として最低の行為だということもな……。だが、理屈ではわかっていても、心が納得してくれぬ……。わしの人生の全てをかけてきた『革命』が間違いだったなどと、死んでも認めたくないのだ……。」  自嘲的な笑みが浮かんだ……。押さえた目頭から、涙が幾筋も溢れてくる……。 「神よ……この愚かな聖職者を笑ってくだされ……あなたのお顔に泥を塗った、最低の聖職者を……。」  ウラジミル師は、そのまま泣き崩れた。  その直後、礼拝堂の扉をノックする音が聞こえた。 「誰だ?」  ウラジミル師は慌てて涙をふきながら尋ねた。 「国防相のレオンでございます。反革命分子の処刑について、報告に参りました。」 「よし、入れ。」 「では、失礼します。」  レオン師は扉を開けると、一礼して入ってきた。その手には、分厚い書類の束をかかえている。 「報告いたします。一昨日、政府軍の第五師団と第七師団に紛れ込んでいた王党派の反乱軍のスパイを発見しましたので、昨日拷問して、反乱軍について知っていることを全部吐かせたうえで、処刑しました。」 「ご苦労…。」  ウラジミル師は、感情のこもってない声で答えた。いい加減、処刑や収容所送りの報告には、うんざりしていた。 (いったい、いつまで、こんなことを続けねばならんのだ……。)  革命政権を守るためとわかっていても、内心では、すっかり嫌気がさしていた。 「大丈夫ですか?ずいぶん、疲れていらっしゃるようですが……。今は大事な時です。お体には充分に気をつけてください。」 「…ん…確かに、そうだな……。気をつけねば……。」
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