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実際、三年前に民衆に推されて首相になった頃に較べると、ウラジミル師はずいぶん老けこんでいた。髪の毛はほとんど白くなり、顔には深いしわが刻まれている。長い独裁政治が、ウラジミル師の体と神経をむしばんでいた。
「あと、個人的なことで申し訳ありませんが……。」
そこで、レオン師は、いったん言葉をつまらせた。
「何だ?もったいぶらずに、早く申せ。」
「では、言いましょう。ウラジミル師よ。先程、ここで泣いておられたでしょう。」
一瞬、ウラジミル師は、身をこわばらせた。
「な、何を言うか!!泣いてなど……。」
「隠しても、わかりますよ。頬に残っている、涙のあとを見れば……。何に対して泣いておられたのです……今までに処刑した反革命分子に対してですか?それとも、処刑せざるを得なかったという、ご自分の弱さや愚かさに対してですか?」
「そんなこと、おぬしには関係ないではないか!!わしが礼拝堂で何をしようと、わしの勝手だ!!」
「いいえ、ウラジミル師一人の問題ではありません。もし、ウラジミル師が多くの部下たちの前で泣き崩れるようなことがあれば、あなたを信じてついてきている部下たちは動揺します。今や、あなたは、正教救国同盟ウラジミル派に属する同盟員全員のカリスマであり、司令塔なのです。あなたの態度ひとつで、部下が意気消沈することもあり得る、ということを覚えておいてください。」
レオン師は、いつになく真剣だった。
「我々の政権が独裁政権である以上、部下たちには、『人民を抑圧する政権に加担している』という負い目があります。だからこそ、指導者は部下たちに自信を持たせてやらねばなりません。『我々のやってきたことは間違っていない』ということを自覚させ、そのうえで、『こうやるべきだ』という方向性をはっきり示してやることです。間違っても、ご自分のやってきた政策を否定したり、国の将来を悲観したりしてはなりません。」
「わかっておる……わしだって、自分の政治が間違っていたとは考えたくない……だが、おぬしには、聞こえぬのか?我々によって処刑されたり、強制労働をさせられたりした者たちの、怨みの声が……見えぬのか?毎晩のように枕もとに立つ、彼らの幽霊が……。いい加減、気が変になりそうだ……。」
ウラジミル師は、頭を抱えながら言った。その姿は、独裁者と言うよりも、いじめっ子の悪意におびえる幼い子供のようだった。
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