第1話

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「お気を確かに持ってください。あなたの罪の意識が、そのような幻覚を見せるのです。死んでいった人民のことを、あまり気になさいますな。 革命とは戦争なのです。歴代の国王がやってきた戦争で、罪もない人民が何万人死んだと思っておられるのですか。」 レオン師の口調は、だんだんと熱を帯びてきた。 「我々は、既に引き返せない所まで来てしまったのです。王政を倒し、我々の政権をつくり、外国軍や貴族どもの反乱軍と戦う過程で、何人の部下が死んだと思っておられるのですか!!彼らは、あなたの目指している『民主的な法治国家の建設』のために命を捧げたのですぞ!!ここであなたが立ち止まったり引き返したりすれば、部下たちや人民の犠牲は、全て無駄になってしまいます!!」  そこで一息ついて、レオン師は続けた。 「あなたが政治を投げ出したいと思う気持ちはわかります。しかし、我々が権力の座から退けば、王族や貴族が再び権力を握りますよ。今、政権をつくれるほどの強大な軍事力を持っているのは、我々と、貴族どもの反乱軍の二つしかないのですから。  我々には、この国、ルースラントが民主的な法治国家に生まれ変わるまで、監督する義務があります。ここで投げ出すことは許されません。これは、革命指導者の責任であり、宿命なのです。」  ウラジミル師は、黙って聞いていた。 (そんなことは、わかっておる……。だが、理屈ではわかっていても、心が納得してくれぬのだ……。気持ちが前に向いてくれぬのだ……。)  レオン師の理屈は、何ら、ウラジミル師の心を満たしてはくれなかった。さすがにレオン師も、そのことを肌で感じ取ったのか、しばらく口をつぐんだ後、今までとは打って変わって優しい口調で語った。 「どうやら、精神的に疲れきっているようですね。私の言葉も耳に入らぬほどに……。そういう時は、泣きなされ……。部下たちの手前、ご自分の弱い所を見せられず、お一人で抱え込んでおられたのでしょうが……悲しい時には、思いっきり泣いたほうがいいです。さいわい、今、礼拝堂の付近には、私しか居りませぬ。泣き声を大勢の部下たちに聞かれることはありませんよ。」 「………。」  しばらく両者の間に沈黙が流れた。 「ふ…ふふ……。」  ふいに沈黙を破って、ウラジミル師は、笑い始めた。 「…??……どうなさいました?」 「いや、『わしは良い側近を持ったな。』と思ってな……。」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加