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(はぁ…はぁ……この街に来て間もないリーザさんが、どうして、こんな真っ暗な道を、迷わずにこんなに速く走れるのよ……土地勘があるわけでもないのに…。ガキのころから街中を走り回ってたあたしなら、ともかく……。)
リーザは息一つ切らさず駆けていく。後をつけていくアンナも、運動神経はいいほうだが、いい加減、息が切れそうだった。
ニャーゴ……ニャーゴ……。
前方から、猫の鳴き声が聞こえ始めた。それと同時に、どこからともなく、猫が集まってくる。猫たちは、そのままリーザの後について駆けた。リーザが街路を走り抜けるたびに、後についてくる猫の数は増えていく。
いつしか、猫の数は数十匹にふくれあがり、アンナのまわりは、猫だらけになってしまった。
(んもう…何なのよ……気味悪いなぁ……。)
アンナが、そう思った時…。
ズルッ……。
「きゃっ…。」
アンナは、ぬかるみで足を滑らせて、勢いよく転んだ。よく考えてみれば、この辺りは町外れなので、街路はまだ舗装されてなかったのだ。おまけに、夕方から降っていた雨のために、道はすっかりドロドロになってしまっている。
(いつの間にか、ずいぶん遠くまで来ちゃったな…。)
だが、次の瞬間…。
「誰だ?このガキ……秘密警察のイヌか…?」
ふいに、誰かがアンナのむなぐらを掴んで、体ごと引っ張りあげた。およそ、人間離れした力で、アンナを軽々と持ち上げて、妖しく光る目で睨みつけている。同時に、猫たちが、一斉にアンナの方を睨みつける。
「ひ…いぃ……。」
アンナは恐ろしさのあまり、声も出せなかった。
「…やれやれ…困ったことをしてくれたわね……アンナ…。」
向こうから歩いてきたリーザが、不機嫌そうに呟く。リーザの目も、やはり妖しく光っていた。
「なんだ?リーザ…おめえの知り合いか?」
「ええ、まあ……とにかく、手を離してやってちょうだい。その子が秘密警察のスパイじゃないってことは、私が保証するから…。」
ようやく、アンナのむなぐらを掴んでいた手が離れた。アンナは「ケホッ…ケホッ…。」とせきこみながら、地面にへたりこんだ。
「…で、どうして、後をつけてきたの?」
「……ごめんなさい。勝手なことをしちゃって……でも、どうしても、気になったから…。」
アンナは、今までのいきさつを簡単に説明した。
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