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外はすでに真っ暗闇の世界になっていた。
いつもの商店街を通り抜けて、アパートへの道を突き進む。
まだ賑やかな商店街のお店は、行きと帰りでは品物の数が違う。
“安売り”と、ダンボールで出来たその看板を目にして手にとったリンゴ……真っ赤で固くて、とても美味しそうだ。
もう1個おまけしてくれたリンゴは、いつもの値段の半額。
スーパーのレジ袋ではなく、茶色の紙袋に入れてくれるところが商店街のお店らしい。
思わずそのままカジりたくなるのを我慢して歩みを進めると、やっとアパートに到着した。
いつものように、大きな木の根元から覗いた部屋の明かりは、今日に限って点いていない。
いつだったか、前にもこんなことがあった気がする。
――ガチャッ!
彼女が留守なのは分かっていても、ドアノブを回す指の間から脂汗が噴き出してしまう。
玄関横のスイッチを押して、部屋の明かりを点ける。
やっぱり……玄関には彼女の靴がなかった。
ほっとしたような……安心感からか、肩の力がどっと抜け落ちた。
手に持っていたリンゴの入った茶色の紙袋も、手から離れいく……
……その時、コロコロと転がったリンゴだけが、何故か色褪せて見えた―――……
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