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ケチャップの味と玉子の味と、そして甘く口の中に広がる味。
別に不味くもない普通のオムレツだと思う。
……彼女もすぐ自分のお皿にフォークを進めている。
そして首をブンブンと左右に振った。
「こんなんじゃダメ! 刹那に美味しいって言ってほしいもんっ!」
「言ってくれるわよ!」
「ううん、言ってくれないよ」
落ち込んだように首を縦には振らない彼女。
この時、……昨日の遊園地での出来事を思い出した。
理紗は、彼が不味いと言った言葉をそのまま受け取って、落ち込んでいるんだ。
あれは私に対しての言葉だったのに、彼女は自分のことのように受け取っているんだ。
オムレツを口に運んで、何だか胸が苦しくなる思いがした。
彼女の気持ちが痛いほど分かったから……
そんなに彼が好き?
そんなに彼を好き?
彼女が桐原君に捧げる愛情は、私が木綿先輩を想っている愛情とは全然意味が違う気がした。
「そーだ、お姉ちゃん! 木綿さんが今からアパートに来るからっ!」
「えっ?」
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