174人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「木綿先輩、いらっしゃい」
と笑顔を前面に出して、この気持ちを隠すように言う私。
そんな私もまた、仮面をつけているのかもしれない。
「お茶でも、淹れますね?」
食べていた食器を片しながら、木綿先輩に話しかける。
女優並みの演技とは、このことかもしれない。
「理香っ……!」
けど食器を片すこともそれ以上演技を続けることも、木綿先輩はさせてくれない。
そのまま包み込まれた身体がピクリと反応する。
甘い吐息が耳を伝わって、心へと流れてくる気がした。
気がついた時、零れ落ちる涙を止めることが出来ないでいた。
「心配した――」
耳に届いた言葉から、その言葉の重みを図り知る。
木綿先輩の目が赤く充血していた。
「木綿先輩、寝てないんですか?」
そっと言葉を紡ぐと、身体に回された手に力を込められた。
私に、それを拒むことは許されない……。
キツク抱き締められて、……胸が苦しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!