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「『召還王』の事だってそうだ……! 奴が死にそうな顔をして日誌を書いているから、俺が燃やしてやっただけだぞ? 感謝こそされど、あんな波動を受ける義理はない!! なんて酷い……大体、教師が未来ある若者に暴行を加えるとは何事か……」
もはや涙すら細い目に滲ませて、青年は高らかに語る。大袈裟な挙動を織り交ぜて。
「オーガもゲートも、幸せを人に分け与えようとは思えないのか? 心が狭い……自分だけ美味い飯を食い、自分だけ美しい妻を娶る。何て酷い話だ……誰かに何かを分け与える心を忘れた時、人は必ず痛い目を見る……それが下ったまで……それを俺が下しただけなのに……」
「…………」
「そんな俺を、罪もない天真爛漫純粋無垢ピュアハートというのを表した俺に……アイツ等は何をした? 世界を超えるだけの威力を持った攻撃をくだしたんだぞ? 俺には、天使をどうにか性転換させて誘拐するという……使命があるのに。……あぁ、クソ、辛い……そして、切ない……つまり、おっぱいは柔らかかった……そういう事……?」
長い言葉を息継ぎなしで吐き続けた『喜笑』だったが──視界の隅に、とある人影がチラリと映る。信じられなかった。
今の今まで気付かなかったという影の薄さ。まるで幽鬼、いや、霞だ。そして、この空間に何の兆候もなく現れたという不自然さ。
──いや、違う。
推測の域は脱せないが、その人影は歪みから生まれたナニカなのだろう。しかし、青年はそれすらも信じられない。
歪みは、歪みの力は、確かに絶対的な強さ。強靭さを維持していた。まさにそこらの神なら一撃で葬ってしまいそうなくらいに。
だというのに。視界の奥で、自分を魑魅魍魎の類を見るような目を持つ少年。黒髪で痩せている、ただそれだけの個性のない少年。
少年からは、強者特有の覇気が微塵も感じられない。寧ろ、最弱。強さというカテゴリーの中で、どんな類の物でも最低辺を思わせる脆弱さしかなかった。
例えるなら、運んでくれと頼まれて差し出された、自分の身長よりも巨大なダンボールがあったとする。
そのダンボールを恐る恐る手に取った時、中身が何もなく、腰を壊してしまう──そんな肩透かし感と、危険度が込められている。そんな少年だった。
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