笑顔の独り言を聞いた転生者は。

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しかし、『喜笑』はそんな不気味な雰囲気を醸す少年を見て、恐れることはしなかった。それよりも、ただ感じた言葉を口にする。 「……な、何だ、お前は……!! 何時からそこにいた……存在感、そう、存在感が無さ過ぎる……空気にすら嫌な色や喜びの色があるのに、お前には何もない……。いや、悪い、嘘だ。ただただ台無しにするような気味の悪さだけだ……まぁ、そんな事はどうでもいい……ここがどこなのか分かるか? 万が一の可能性で、君の庭だというのもある……その時は、勝手に入ってごめんなさい……」 相も変わらず、長い口上を全く噛むこともなく、すらすらと紡ぐ『喜笑』。ぺこりと頭を下げたが、謝っているというより、つむじを見せているように感じる体だ。 その不快感は、不思議な少年も感じたのだろう。少しだけ眉を寄せて、不審者を訝しがる様にする。 しかし、青年は怯まない。自分がどんな目で見られているのかというのを完全に理解しながら、唇を軽やかに動かした。 「まぁ、あれだ。そんな邪険な顔をするな。……背景と同化する事が趣味な少年よ、君がここにいるという事、そして、ここが君の庭、敢えて言うなら……友達が一人もいないせいで、創り出してしまったような世界。この世界の道のりを教えてくれ……」 数秒の沈黙。 遂に、少年の浮かべる表情は呆れとこの場から早く逃げ出したいといったものへと変わっていた。 それでもニコニコと。ニコニコとキツネが笑ったような顔を向ける『喜笑』に辟易したのか、 「さぁ……僕もついさっきここに来たばかりだから、ここがどこかなんて知らないよ。寧ろ、僕の方が聞きたいくらいだ」 この奇妙な空間に来てから、初めて口を開いた。口調だけで煙たがっている、と常人なら分かるくらい気怠げに。 「そうか……奇遇だな、少年。ならば、君も誰かに嫌な事をされてここまで来たのか……あぁ、酷い……思い出すだけで泣けてくる……。ならば、道すがら俺の生き様を聞いてくれないか? 波乱万丈……これほど、俺を表す言葉もない……そう、アレは……」 「いや、僕は誰にも何もされていないけど……まぁ、何というか、ちょっと失敗しちゃってね。後、話は長くなりそうだから聞かない」 『喜笑』の言葉を遮った少年は、踵を返して人の気配のない街へと消えようとした。だが、青年はその歩みの前に躍り出す。
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