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「失敗……か。失敗は成功の種という言葉がある……その言葉が現実だとすれば、今まで失敗ばかりだった俺の人生は、これから成功にまみれていくという事になるだろう……!! いや、ちょっと待て……種が種だけで芽を咲かせたら、これはもうホラーだ。という事は、アレか? 俺はこの失敗の種を咲かせるために、土と水と日光となる何か別の経験を──」
「…………いや、だから、話は面倒だから聞かないって言ってるだろ……」
言葉の羅列を遮った少年は、心底うんざりといった調子で溜息を吐く。全くもって普通の反応。
そこから推測するに、この少年は得体の知れない雰囲気を持ち得ながらも、思考は常人のものなのだろう。
寧ろ、そんな反応を見せつけられても言葉を吐き続ける『喜笑』の方が狂っていた。加えて、話が異常に長い。
「まぁ待て。人の体験というものは聞いておくべきだぞ? 特に、俺のような素晴らしい人間の体験など……後世七代先まで語り継がれる程の体験談なのだがどうか?」
「遠慮しておく」
即答。間髪入れず、相手にもせず。青年の方に背中を向けて、歪な少年は足を進めていた。
それでも、また『喜笑』は回り込む。ニコニコとした笑顔は貼り付いたままだが、その顔には確かな充実と困難へと突き進む色に染まっていた。
「……ここまでして、俺の言葉を聞かない人間は初めてだ。つまり、俺は今、困難に立ち向かう主人公……ラスボスはお前、達成すべき事は話を聞かせること……。そして物語の主人公は、最後はヒロインと結ばれる……!! 何て事だ、俺の土と水と日光はお前だったのか……要するに、天使に迎えにきてもらう為……話を聞いてもらうぞ」
「…………うわ」
思わず口に出た。遂に、少年の口から純粋な嫌悪感が漏れ出した。
勝手に最後の敵扱いされ、何故か自分に闘志を燃やす笑顔の男を見れば、誰だって逃げ出すはずだ。故に、常識人である少年は、耳を塞いで小走りで逃げ出していく。
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