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「まずはそうだな……ここに来た経路を話しておくべきなのだろう。全く、本当に酷いぞ? 俺の仲間は、いや、もしかしたら奴らは俺を仲間だなんて思っていないのかもしれない。寧ろ、仲間だと思っている方が問題……何故なら、仲間だと思っている俺に死を覚悟させる威力……って、何故逃げる! 人の話は聞くべきって、ちょ、おーい」
そこまで喋った所で、ようやく『喜笑』は少年が逃げ出していた事に気付く。身体能力は並程度なのか、そこまでは離れていない。
それでも『喜笑』は自分の話の途中で逃げられたことに、多少の寂寞を感じていた。何度呼びかけても、少年は足を止めることすらしなかった。
普通なら無視されているのだと考える光景。しかし、呼び止めている青年は普通からかけ離れた存在である。
そのせいか、青年はあまりにも馬鹿馬鹿しく、そして、頭のおかしい結論を導き出した。彼の導き出した結論とは──
「ま、まさかとは思うが……いや、俺の声が届いていない可能性もある……しかし。あの少年……俺の声を、俺の話を聞きたくないが為、鼓膜を潰した……? 何て、何て男気……そして、何というラスボス……ここまでされたら、俺は……」
『喜笑』は笑みで悲哀を表現しながら、何もない空間から一つの果実の皮を手に取る。それはとても奇妙な光景だった。
彼が手に取ったのは、黄色い皮。世間一般ではゴミとして捨てられ、一昔前の喜劇ですらもう使われないような──バナナの皮だ。
「──ハッ」
それを力の限り投げる。何かを感じ取ったのか、走り去る少年は放物線を描いて自身に向かう皮を見て、明らかに侮蔑の視線を送った。
だが、その皮が少年の足元に落下した刹那。有り得やしない奇跡的な出来事が起きてしまう。
つまり──その少年がバナナの皮を踏みつけ、派手に転んだ。サマーソルトの要領で、後頭部を打ち付け、
「…………ぅ、ぐぁ……」
洒落にならない音を響かせ、断末魔にすらならない呻きをあげて倒れ伏す。否、確実に、あの勢いでは────死。
だと言うのに、『喜笑』は変わらずにニコニコと笑っていた。笑みを浮かべることは異常ではないが、それが殺人を犯した後に浮かべるというならば────ただただ狂ってる。
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