笑顔の独り言を聞いた転生者は。

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「全く、最近の子どもはどうにも倫理観に欠ける……。人間をああも容易く殺すなど、普通はあってはならない……スタージャの奴らはその、何だ。ある意味、俺が死なないと理解して攻撃している節があるが、この少年はなんだ? 俺を殺しに来たぞ? 万が一、一般人だった場合……どうするつもりだったんだ?」 もはや、スタージャの中ではお約束と言っても過言ではない『喜笑』の復活。しかし、それは怪物達の常識であって── 「…………は?」 間違っても、世界の常識ではない。故に、残虐な少年であろうとも、振り向いて現実を直視するのには数秒の時間を要した。 少年が振り向いた先にあったのは、ニコニコと笑う笑顔。背中に冷たい筋が走り、信じられないものを見たというように、目を見開く。 だが、そんな反応は当に慣れているとばかりに、青年は言葉を紡ぐ。とはいっても、彼にも多少の疑問が浮かんだようだが。 「まぁ、あれだ。考えてみれば、君も生き返っているじゃないか……ゾンビ、そう……ゾンビだ。ゾンビというのは、墓穴からも容易に這い出るものだと認識しているが……どうすれば、いい?」 心底不思議そうに首を傾ける『喜笑』。対するは、信じたくないものを必死に理解するために数度息を呑む少年だ。 恐らく、この少年の世界では、彼一人が理から外れたような存在なのだろう。だからこそ、普通なら取り乱してもしょうがない場面なのだが、 「 僕と同じじゃないか 」 吐き捨てた後には、少年には焦りの感情が浮かんでいなかった。無論、楽観視もしていなかったが。 戦い、否。想定外の不幸を経験することに慣れている。少年の真剣な顔を見れば、過去に何かがあったのだと感づくのは強者ならば容易い事だ。 『喜笑』も、例に漏れずそれには感づいたのだが──そんな自分にとって些細な事を気にするようでは、彼は彼でない。続けて口にしたのは、ただの不幸語り。 「く、くく。俺も殺され慣れすぎた……まさか、ただの一ゾンビ如きに殺されるとは……今日は間違いなく厄日だな。……くく、くくく」 青年は含み笑いをした後、大袈裟に手を広げる。漆黒のローブが少しだけはためいた。 「お前に話をする男の名前を教えてやろう……いや、名前など捨てた。俺の二つ名であり、本名となった名前は……『喜笑』。喜び……笑うと書いて、『喜笑』」
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