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その歪みが、空虚な少年が行ったものだと分かったのは「よっ」と軽く呟いたから。そうでなければ、弱者を体現したこの男が放ったとは分からなかっただろう。
だが、『喜笑』が思考できたのはそこまでだ。空間が波打ち、視界が、否。本当に青年の周囲を囲む全てが歪んでいく。
音もたてず。ただ静かに。冷たく。遥かな威力を凝縮させて。
もしかすると、空間を歪ませるだけならば、『喜笑』だけでなくスタージャの十傑にも成し得る事なのかもしれない。そう、歪ませるだけなら。
問題なのは、そこに使う労力と威力。少年は息を吐くように、文字通り空間を歪めたが──これは異常だ。本来ならば、決して有り得ることでないのだ。
その異常に飲み込まれ、青年は苦しみ、もがく。死に慣れ、痛みに慣れた彼ですら、激痛で失神しかけ────
更なる脅威が『喜笑』を襲った。
歪んだ空間が全てを歪ませた後、嘘のようにピタリと止まる。だが、その瞬間。空間は、今までの歪みを自力で取り戻すため、戻り始めたではないか。
音のない暴風が、全てを食らいつくす。中心にいた『喜笑』は元より、周囲の家屋までをぶち壊しながら──この世界の一角は、圧倒的な質量を解き放った。
同時、ズズン──と。街の地盤が沈下した。『喜笑』の身体の欠片や、血溜まりすら無く、残ったのは大きなクレーターのみとなる。
だが、それも一時だけの風景だった。
「……素晴らしい。これを一個人だけで、これだけの強さを発揮する人間は……俺は一人しか知らない。誇れよ、少年……そして、笑え……俺が今さっき言った本気というのは、嘘だ。今からが……本気だ」
傷一つ無い状態で、クレーターの中心で笑う青年。衣服に乱れもなく、身体に異常をきたしているようにも見えない。瞳には警戒と、純粋な賞賛が浮かんでいるが。
これが『ギャグ補正』。
これがスタージャ二位。
恐らく、生半可な"強者"では裸足で逃げ出すであろう光景がそこにあった。
しかし、
「……ふ、ふは……ハハハ」
『喜笑』の前に立つ少年は、決して強者ではない。幼い頃の彼と同じく、自分の力に振り回された──弱者。
「ハハハ……ハハハハ、ハハハ」
過去は違えど。能力は違えど。風貌は違えども。
過去に望まぬ死をまき散らし。人が扱うには過ぎた力を、恩師から手解きを受け。どこか壊れた雰囲気を醸す彼らは────
鏡映しの様だった。
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