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直立の状態で、何時の日か糸目が見せたように、地面を軽く踏みつける。発動するは──前方への崩壊と消滅。
星が割れるなどという、大層で大仰な出来事が起こったわけではない。
しかし、今、この状況でのこの攻撃は、そんなものよりも遥かに効率的だった。
「うぉぉぉおおお??」
少年が足を踏み下ろした地点から、莫大なエネルギーが伝わり、亀裂を作り上げていく。そのせいで、『喜笑』も足を取られて転んでしまったが──
終わらない。そんなものでは済まされない。地中から伝った歪な力は、周囲の建物すら飲み込んでいった。
それが何を意味するのか。力の働く方向を『喜笑』にだけ向けられた為、数瞬後には、建築物の雪崩が圧倒的な速度で襲い来る。
「これ、アレだ。『英雄』も似たような事をしていたぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァaaaaa────…………」
轟音と共に『喜笑』の声もかき消された。土砂が舞い、粉塵が天を覆い尽くしていった。だが、それだけだ。そんな程度だ。
「…………はぁ」
「どうした? そんなミドリムシみたいな顔をして……いや、ミドリムシに顔は」
「なぁ、もう止めにしないか?」
ニコニコと笑いながら。嗤いながら、瓦礫の山から足を進める青年を前にして、少年は溜息を吐いて言う。もう、うんざりだ、とばかりに。
『喜笑』は少年のその変わりように、眉をひそめる。話を遮られるのには、もう慣れたものだ。
しかし、目の前の少年はどこか憑き物が落ちたかのような顔をしていた。この数秒の間に、一体彼にどんな変化があったのだろう。
「……止めにする。止め……それは、トドメという意味で俺に放ったのか? それをわざわざ口にするという事は、隠された力を発揮し……俺を今から、殺す? ヤバい……ヤバすぎる……まさか精神攻撃をしかけてくるとは……」
「勘違いしてるとこすまないんだけど、そうじゃない。僕はこの無益な戦いをやめよう、と僕は言っているんだよ」
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