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「ほぉ……こんなに楽しい戦いを止める?」
『喜笑』の目が興味深そうに細められる。声のトーンは抑えられていて、今にも手を出してきそうな雰囲気だ。
「そう、戦いの停止。休止だ。そもそも僕たちは一体全体、何のために戦っているんだ?」
「そりゃあ、あれだ。俺は俺の話を聞かせたいから……当たり前じゃないか。だのに、何故こんな質問をするよ? 馬鹿か? いや、記憶力がミジンコ並……つまり、お前……馬鹿だな? で、聡明な俺に答えを聞くと。要は、俺は俺のため、お前は俺を殺すために戦っている。正解だ」
馬鹿に馬鹿と言われる──だけでない。人類最馬鹿に言われたのだから、屈辱がどれだけなのかは計り知れなかった。
実際、少年の眼孔にも剣呑な色が宿ったのだが──それは一瞬のことだった。
「うん、正解。確かに僕は、少し前まで君に復讐心を持っていたのかもしれない。君を殺したいと思っていたし、実際に君を殺したりもした」
「あぁ、アレは痛かったな。痛かった……あの爆発は素晴らしい威力を誇っていた」
「その通り。……つまり、だ。君を殺した時点で、僕は僕の中に蓄積されていた恨みを、鬱憤を、既に晴らしているんだよ。僕はもう君に何の恨みもない。それどころか、同じ『不死身』同士、親近感すらわいていると言える」
「…………なんと!!」
『喜笑』は軽く腕を上げ、薄い双眸を見開いた。明らかなオーバーリアクション。少年は流し、続ける。
「そう、僕はもう戦いたくないんだよ。戦いなんて、戦闘なんて、殺し合いなんてごめんだ。そもそも、僕という人間は比較的穏やかな人間なんだ。平和を愛し、流血沙汰を嫌う……そんな人間なんだ」
「…………ふむ。おかしな話もあったものだ。血が嫌いな人間が、ペンを武器として扱うとはな」
クツクツと肩を揺らす『喜笑』。こればかりは少年にも都合が悪いのか、目をそらして口を開く。
「確かに僕は、さっきまで殺気立っていたのかもしれない」
「それはなかなか寒いな。もう少し趣向を凝らすべき……さっきと殺気など空気を凍らせるだけだ……」
無視された。
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