笑顔の独り言を聞いた転生者は。

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「とにかく、それはただ単に苛ついていたからに過ぎないんだ。誰だって、心が荒んでいるときには粗暴になるだろう? 粗暴で暴力的。今は冷静になって理解できるけど、さっきまでの僕とは違う」 「……ふむ。理屈は分かる」 『喜笑』は納得したように腕を組み、うんうんと頷く。顔にニコニコ笑顔を宿らせたまま。 「寧ろね」 少年も饒舌になる。先刻までの殺伐とした空気が、まるで嘘のようだった。 「平和を好む今の僕にとっては、別に君の話だって聞いたっていいんだ。全然構わない。それどころか、後学のために聴いておきたいとすら思っている」 「素晴らしい……何と言うことだ。俺達は拳を握り、夕焼けが照らす丘の上で殴り合うような……そんな青春の一ページを築いていたというのか……? 友情………これこそが真の友情なのかもしれない……いや、真の好敵手と認めようじゃないか」 『喜笑』の笑みが一段と深くなり、少年の無表情がより際立つ。どこまでも正反対な二人の会話を遮る物は、何一つとして無い。 僕は平和を望む。いくら殺されても死なないからと言って、好き好んで死にたいわけじゃない。死ぬのは苦しいからね」 「分かる……分かるぞ!! 俺とこれほどまで話が通じる人間がいたか? いや、いない……そう、奴らは俺が死なないばかりに容赦のない一撃を放ってきてな。全く、有り得ない……本当に酷いんだ」 『喜笑』は笑顔を煌めかせた後、どんよりとうずくまった。少年はその様に、少しだけ安堵する。ぎこちなく、頬をひきつらせて、だ。 「なら、君も死にたくないだろう? 死んで生き返ってまた死んで……不毛でしかないと思わない?」 「……確かに」 「不毛ということは、無駄だということだ。無駄なことをするというのは僕の主義に反するん。だったら、この戦いは止めにしよう」 少年がここまで饒舌なのは、珍しい。仮に、この少年と行動を共にする者がいたとしたら、驚きで目を見開いている場面。 しかし、『喜笑』はそんな事を知る由もないのだ。ただただ上機嫌に鼻歌すら歌うこの男には。
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