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「…………」
──…………は?
何が起こったというのか。少年は、自分の身に起きた事が理解できずに、ぽかんと口を開く。
次いで、強烈な光が網膜に飛び込んだ。それが太陽の光だと知ったのは、随分先の事。その時は、何かを顔にかけられたのだと判断し────
彼は、我を忘れて能力を暴走させてしまう。激しい光のせいで何も見えなかったが、その破壊の規模は軽く三つの世界を終わらせるくらいだった。
──あ
──ああ、あぁぁ……アアアアアアアアア……!!!!!!
声を出すことを忘れた少年は、数秒後我に返り、心の中で泣き叫ぶ。またか。またやってしまったのか、と。
どうせ、自分の顔が回復した時には、周囲に人の気配はない。また無人の世界が広がっている。当たり前だ。今までだって、ずっとずっとそうだったのだから。
だから少年は終わってしまった世界に謝罪を繰り返す。土下座のような格好をし、頭の上で祈るように指を絡めて。
──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……僕なんか死んでも死ねないのに、殺してしまってごめんなさい……何かされたからって反撃して……ごめんなさい……。
「何をしている」
──ごめんなさいごめんなさい…………え?
本日、二度目の驚愕。
顔を上げると深い闇に包まれた瞼の裏に、光が映し出された。
もしかしたら、ただの太陽の光だったのかもしれない。しかし、少年は見た。
暖かい光を。糸目の裏で。自分の心の闇をある意味馬鹿にしているのかというくらいに、力強い光を。
「お前に何があったのかは知らん。聞く気もない、だが俺からしたら所詮その程度だ」
無遠慮な一言を紡いだ光は、語る。不幸で不幸で仕方がなかった少年の心を、圧倒的な強者の暴論で片づけた。
「お前如きの力で世界に絶望するなど、俺に対して失礼だとは思わないのか?」
少年の闇を打ち砕く、高圧的な口調。同時に悟る。
この光なら、自分を必ず止めてくれると。自分がただの人間として生きれるのだと。
この日から、少年は一人ではなくなった。捨てた名前は、自身が嫌いでしょうがなかった能力を象った名前へと変えた。
『喜笑』と。
◇◇◇
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