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「有り得ません」
「そんな馬鹿な……そこは顔を真っ赤にして否定する所だろうが……!! …………まさ、か。まさか!! まさか!! 逆にお前が調教してい」
そこまで言った所で、青年の上半身が綺麗に消滅した。バシャバシャと血潮が数メートルの高さまで上り、ライトの衣服を赤に染め上げていく。
そんな腰から噴き出す赤い噴水が妙に美しくて、一つの芸術作品として飾られるレベルになるだろう────と、糸目の青年は薄い双眸で判断していた。今まで自分を追い詰めていた悪鬼には、認識できない所で。
「この程度で死ぬなら、今まで何回死んでるのでしょうね。下手な演技をせず早く出て来なさい」
──絶対、無理。無理だ。しかし、やばいなぁ……もうこのまんま生活するべきなのかな……。それはそれで幸せなんだろうけど……見つかった時が怖すぎる……!!
その場所は、ライトの丁度真後ろ。馬鹿馬鹿しく、阿保らしい所だったが『喜笑』にとってはこれ以上無い絶好の隠れ場所だ。
それも、彼が生まれ持った呪われし能力──『ギャグ補正』によるもの。彼の行いの一つ一つが、ギャグのような効果を持つ能力だ。
故に、本来ならば直ぐにでも気付かれる場所でも。いや、そんな場所だからこそ、糸目の青年はライトから気配を手繰られる事はない。
──フ、フフ、フハハハハハ。よくよく考えてみれば、この生活も悪くない。悪くない……!! 風呂に行くときも、どんな時でも痴態を見れるこの環境はなかなかに男の夢なんじゃないだろうか?
ある意味で男の夢が叶いかけた事に、『喜笑』は二つ名に違わない笑みを浮かべる。だが、数秒後、そんな儚い思考を打ち破る声が、彼らの真上から放たれた。
「探したぜ。……よくも俺の日誌を燃やし尽くしてくれたなぁ? しかもご丁寧に、地獄の炎でよ。俺の今年の給料が、教員の分だけって知っての行動だったんだよな? 『喜笑』」
無機質で、気怠げな声音だった。しかし、確かな殺意と怒りが込められた地響きのような色も含まれていた。
何事かとライトと『喜笑』が上空を見上げた時、天には信じられない奇跡が。もしもこの世の全ての宗教を信じ、崇める信者がいたとしたら、感激のあまりに自害するのではないかという景色が映し出される。
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