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唐突な発言に朧月は驚いた。
同時に脳内で自問自答する。
自分の力を周囲に披露するべきかどうか。
答えはもちろん「有り得ない」の一言に尽きる。
朧月にとってドグマは商売道具だ。
劇団員でもあるまいし、自分の資本主義を見せつける行為はいただけない。
「僕の能力が少しだけ見れるよ。それに情報の提供料だって思ってくれれば検討する範囲内になるんじゃない? 後出しするみたいで悪いけど、僕は世間的に有名な日下部祈の子供なんだぜ。情報にガセネタはない」
「……けどよォ」
「僕は君の能力を知ってるし、孤児院で僕と同年代のメンツはみんな知ってるはずだから気にすることないよ」
確かにそうかもしれない。
ここには、何度か立ち寄ったことがあるのでわかるが、人通りは少なかった。
それに、孤児院のメンバーが手合せをしているのは何度か見ている。
日下部には顔見知りが多くいる。
最近になって教師が顔を覗かせたりすることもあった。
その教師がかなりの手練れだったことは記憶に新しい。
ここで最高の実力者であるはずの日下部が手も足も出なかったからだ。
あの男はシンプルであるがゆえに強かった。
もし戦えるとするならば、あの男だ。
確か名前はなんと言っただろうか。
「なあ、日下部。前に来た教師のことなんだが」
「ああ、冷泉先生? 僕の担任でドグマ学Bを専攻している人だね」
ドグマは筆記と実技に学問が分かれるのだが、どうやら冷泉と呼ばれる教師は後者の研究を生業にしているらしい。
どおりで強いわけだと確信する。
恐らく実用性のあるドグマの使用法を相当量会得しているに違いない。
できれば、一度だけ戦ってみたいものだ。
もっとも、敗北することは目に見えているが。
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