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【2】
「で、先生のこと呼んだのね……僕、忙しいんだけどなあ。憧れの職業になったは良いけど他の教員の皆様になんかターゲットにされて虐められてるし」
「冷泉先生、生徒に笑顔で愚痴るの止めてくれます?」
「ああ、ごめんごめん。で、そちらにおるんは……じゃなくて、いるのは朧月君だったね。確か勝負したいとかなんとか」
眼鏡をかけた長身の男がこちらに視線を向けた。
胡散臭い営業スマイルだと思う。
しかし、それを敢えて告げる朧月ではない。
さっき言いかけた言葉は恐らく関西弁。
西から来たのだろうか。
「で、教頭先生に不良の面倒を押し付けられて休日の半分を潰されたあげく、生徒会の顧問として生徒会長二人に仕事を押し付けられた僕は、日下部君の孤児院で子供と遊ぶわけか……休日ってなんだろう」
遠い目をした教師には共感せざるを得ない。
小奇麗なブラウンの背広を着ているということは、不良と保護者の間を取り持ったのだろう。
あるいは万引きをした学生に代わって店長に頭を下げに行ったのだろうか。
そして、もうひとつ気になるワードといえば『二人の生徒会長』だ。
日下部の通っている恒星高校といえば生徒会に副会長と会計と書記が存在せず、二人の生徒会長が在校生をサポートしていると聞く。
歴代会長はいずれも美男美女でどちらも圧倒的人気を誇っているらしく、実力もあるようだ。
一度、お目にかかりたいものである。
「さて、それじゃあ早めに始めよう。先生は焼き鳥が食べたいです」
背広のボタンを外した教師がグラウンドに立ってからステップを踏み始めた。
どうやら準備は万端のようである。
朧月は願ったりかなったりだと言わんばかりに、冷泉の正面にまで歩み寄った。
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