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まず、冷泉は朧月から目を逸らす。
恐らく視線の先には日下部がいるのだろう。
「日下部君、なにを突っ立っているのかな? 早く来なさい。彼とタッグを組んで先生と戦って勝てたら、僕が担当できる科目の通信簿は全部満点にしてあげるよー」
眼鏡の奥に映った笑顔に並々ならぬ気迫を感じる。
この男は、今まで戦ってきた中でも最高位のクラスのシンカーだ。
かつて世界を救った十人のシンカー『毛氈の十怪』と肩を並べるほどの猛者だと評価できるほどの存在だと言えよう。
以前、毛氈の十怪に選ばれている男と戦った朧月だからこそわかる。
「先生、僕をあまり嘗めないほうがいいぜ」
「挑発はしてないよ。ただ単純に考えるとね……先生は微妙に強いから。あと前にも言ったけど、君はドグマの使い方がマニュアルすぎるんだ。もしかして、ゲーセンのレースゲームさえできれば運転免許なんてヨユーとか思ってない? 傲慢は身を滅ぼすよ?」
「愚者は失敗から学ぶんです。ですから僕に失敗させてくださいね、微妙な先生」
「挑発するん上手やなー。あ、いかん。関西弁が出てた」
なにより恐ろしいのは、冷泉という男に感情の起伏が見受けられないところだ。
心を逆撫でするような発言を軽くいなしている。
表情が喜怒哀楽の『喜』からぶれていないのだ。
日下部が朧月の隣に立ったところで冷泉は告げる。
「朧月君はきっとソロプレイヤー。チームで戦ったことはあまりない。というより、特定の相手しか信用していないんだ。今の君に必要なのはパートナー。自分のことを正面から否定してくれるパートナーだ」
「否定?」
「そう、否定。肯定なんて誰でもしてくれる。服屋さんにいけばデブでもガッチリしてるって言われるし、僕みたいなモヤシでもスラッとしてるっていわれるからね。駄目なことをダメっていう日下部君みたいなお友達は必要」
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