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へらへらしたまま、呑気な口調で呟いた冷泉は指をぱちんと鳴らした。
同時にゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
戦いは始まったのだ。
昂る緊張感に支配されないように深呼吸をする。
朧月はこの戦いで命の危機がないことを知っているにもかかわらず、恐怖心を拭えない。
「どっからでもかかって来な? 早くしないとすぐに負けるよ?」
「言われなくてもそのつもりです!」
まず、日下部が動いた。
突然しゃがんだかと思うと地面の砂を握りしめ、それを相手に放り投げた。
「ふうん……この能力」
何かを喋ろうと口を開いた冷泉の言葉は最後まで聞き取れなかった。
日下部の投げた砂が砂塵を巻き込んで嵐となり、相手を視界から消し去ってしまったからだ。
黄色い律動が、隣にいる少年の身体から放たれている。
これこそがドグマを使用したという証明なのだ。
砂の投擲を砂嵐に変える能力。
日下部庵はそれを可能にする。
朧月がこの攻撃をまともに受けようものなら、全身を砂に打ち付けられて怪我を負うことは避けられない。
だが、冷泉は違う。
この攻撃を受けても無傷で済ませるだろう。
「……ってことなんだけど。つまり日下部君は上級者を相手にした場合、意表を突いていかなきゃねぇ」
風が冷泉を囲むように吹きすさぶ。
本来は見えないはずのものだが、砂のおかげで風流が視認できる。
冷泉のドグマは単純かつ明快。
自然を自在に操る能力だ。
朧月の記憶では、風の他にも炎やら水やらを操作していた。
まるで魔術師のような異能だと思う。
確か平安時代に活躍していた安倍清明がシンカーだったという説が有力だった。
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