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誓いを立てながら冷泉は嘆く。
まさか毛氈の十怪に属する自分が、このような玩具に負けるとは思いもしなかった。
「恥じることはねえよ。俺ひとりだったら負けてただろうし、このやり方は俺にとって気に入らねえやり方だった。俺の掲げる資本主義に反するからな」
「それ以上に勝ちたかった。君はそう言いたいんやな」
冷泉の問いに朧月は頷いた。
赤い瞳の青年は全てが終わったと言わんばかりに首を鳴らし、踵を返して孤児院を出ようとしている。
「ちょ……どこいくの? 休んだ方がいいんじゃない?」
「心配すんなクソ教師。ちょっとコンビニに行くだけだ。見てぇ週刊誌があるからな」
生徒に罵倒されるのは慣れている。
不登校な生徒を説得したり不良を更正させるのが、役割だからだ。
しかし、おせっかいな性格をしているので何となく朧月のことをかまってやりたくなる。
冷泉にはハーフキラーを名乗る青年が子供にしか見えない。
「困ったときは先生と友達に相談しろって学ばなかったかな? もっとも相談する先生は選ばんとあかんけどな。じゃないと大変やし」
「それなら冷泉先生には相談できないね」
「ちょ! 日下部君は余計なこと言わない!」
屋根の上から妨害する声にツッコミを入れたあとに朧月の方へと視線を向けると、そこにはもう彼の姿はなかった。
死人に挨拶をするような虚無感を胸に抱きながら、無言のままで額を押さえて立ち上がる。
どこに行ったのかはなんとなくわかる。
間宮唯という少女を探しに行ったのだろう。
あの決意ある深紅の瞳が、それを語っていた。
「あーあ、行ってしまったな」
乾いた空に虚しい声が響いた。
果たして朧月は無事に帰れるのだろうか。
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