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「多分、貴様に名乗る名前はないって言うだろうから……あえて名前は聞かないでおくね。そちらのスキンさんは、きっと話が分かる人。もっとも、どちらかといえばって言葉が先につくけれど」
「まあ、俺の方がこいつよりも先輩だからな」
スキンヘッドの男が一歩踏み出した。
地獄から響くような低音だ。
黒いスーツとギャングを思わせる髭は『泣く子も黙る』というフレーズに似合う風貌である。
だが間宮唯は怯えない。
死よりも苦しい過去の惨劇に比べれば、こんな状況は蚊に刺された程度だ。
「でも、スキンさんよりグラサンさんのほうが強いね。なんとなく、わかるんだ」
「ああ、お前の意見は正しい」
「否定しないんだぁ。立場を弁えてるんだね。偉い偉い。やっぱり私に年だけ勝っている先輩はこうでなくちゃ……どうせ、実力では私に敵わないんだからね」
唯の周囲を取り囲むようにクロアゲハが舞う。
彼女がドグマを発動させたのだ。
対する相手もまた能力を駆使したらしく、赤い陽炎がわずかに揺らめいているように見えた。
スキンヘッドの男は唯に告げる。
「俺のドグマの名は暴力の独占。俺の行為の全ては傷害罪や殺人罪にはカウントされない。強盗はカウントされちまうがな」
「へえ、それだけですか。大したことないですね」
「バトル漫画やサイエンスフィクションにのめりこんでる嬢ちゃん世代にとっちゃあ、俺の能力はさぞストイックだろうよ。世界にバレずに人を殺せることがどれだけ魅力的かすらわかんねえだろうから」
聞き取りやすいようにゆっくりと喋る男を蔑視するように唯は見つめる。
その目に孕んでいるのは怒り以外のなにものでもない。
間宮唯は男に激しい敵意を向けた。
人を殺すというワードは彼女の中では禁句に等しいのだ。
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