第二章【最強の能力者】

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「どうせ勝つだろうから言っておくね。私のもうひとつの能力は、私に負けを認めた相手の能力をコピーしたうえで昇華させるものなの。もっとも、スキンさんの持ってるような、パワーアップさせることが難しい能力には無力なんだけれど……あくまでドグマを頂く場合のことだからね」  相手のドグマを得ることが不可能でも、今までに倒した相手の能力を使用することは可能だ。  少女の言ったように、この戦いにおける勝敗は決まったも同然のものになってしまった。  勝てるわけがない。  百戦したら九十戦は負けるだろう。 「あ、命の心配をしているのなら安心して? 先輩を殺した人が使っていたネクロフィリアってドグマを強化して、死んだ人間を一回だけ生き返らせることができるようになったから」  純粋無垢な顔をした少女の口から放たれたのは、生命の保証をされた死刑宣言だった。  例え復活が約束されたとしても絶命することは恐ろしい。 「ちなみに私が使っているドグマはピタゴラスの定理。あらゆる概念に数を足し引きできる能力。私には倍加と半減しか使えないんだけどそれでもグーで車を壊せるから油断しないでね」   「ふん……まさか勝ったつもりでいるのか」  スキンヘッドの男は言った。  少女は何も答えなかった。 「勝負は最後まで……わからないっ!」  サングラスの男も諦めが悪い。  いっそのこと泣きじゃくって「怖い怖い」と震えてくれた方がすっきりする。  海底でのろしを上げるように無謀な希望を掲げて戦う男たちなど評価する価値もない。  ああ、なんで男の人は無駄な意地を張りたがるのだろう。  ふと脳裏に朧月の姿が映り、涙腺が緩んだ。  唯は心で泣きじゃくる。  自分が求めた平和を実現させるための能力で敵を傷つけなければならないという二律背反に苛まれながら。
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