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感情を逆撫でにするような声に苛立った唯の顔が歪む。
この露久保という男。いや、露久保という人格といえばいいだろうか。
彼にはどこかペテン師の旋律を感じる。
どこか心の一部を欠落させたような、そんな印象だ。
不気味、という言葉が相応しい。
「ま、細けえこたぁいいや。オレは昔っから会話が横道に逸れすぎて本題が離せずじまいで終わっちまう癖があるから、そろそろ本題に入ろうか。オレは可愛い唯ちゃんを助けたいんだよ」
「本題? なあに?」
「アンタ、警察のトップに狙われてるみたいだぜ。ケケケ、まあ悪いこととか相当やらかしたもんなぁ」
心当たりがありすぎて困るぐらいだ。
ため息をつき、相手から視線を逸らした。
ポケットに手を突っ込んで猫背になった状態でこちらにニヤニヤと笑みを浮かべてくる相手には嫌悪感しかない。
「一番ヤバいのは殺人未遂。知ってるんだぜ、あの研究者が手足をちょん切られた状態で幽閉されてんの。唯ちゃんの悪平等は相手が死んじゃうと能力が消えちゃうんでちゅよねぇ……ぎゃは! ぎゃはははは!」
「さっき痛い目に遭ったのに、懲りないね」
「まあ、戦ったりはしないさ。アンタが本来宿してるほうの悪平等は、ひとりに一日一度しか使えねえんだろ? もう理不尽に痛がる必要もねえから安心してんだよ」
どうしてそのような情報を知っているのか。
そして、それを知っていながら対策をせずに指を骨折したのはどういうことか。
露久保に関する疑問点が、脳内に浮上し続けている。
恐らく相手はシンカーだ。
しかも、唯と同じような例外の臭いがする。
「今回は退かせてもらう。目的は果たしたしな。オレの言ったことを信じるかどうかは唯ちゃん次第だぜ。まあ、短い時間でじっくり考えるんだな」
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