第一章【邂逅】

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「そうだね。彼女にとって平和主義という能力がお荷物になったか、あるいは平和主義よりも自分の肌に合った答えを見出したか。朧月は心当たりないかい? 言動の違いとか」  君の抱く違和感の正体を突き止めることが最重要事項だ、と日下部が断定した。  確かにその通りだと思う。  相手の事を知らねばドグマは察知できない。  例えば朧月は資本主義の能力者だが、この能力は朧月自身が抱く金への執念がそうさせている。 「ドグマには因果関係がある。無意味にできる代物じゃないからね。だからこそ、シンカーは選ばれた人間と呼ばれる。ちなみにシンカーは歴史学上で目立った差別をされたことがないのは知っているかい?」 「なんじゃそりゃ? 不思議なもんだな。自分に無ぇもんを羨むのは人間にとっては宿命みたいなもんじゃねえかよ」 「表現が悪かったね。僕が言っているのは諸外国が宗教関係で暴動は起こすほどにシンカーがノーマルと争っていないという意味で言ったんだよ。可笑しいとは思わないか? 人間はいつの時代も土地と宗教と金を巡って戦争をしているんだ。シンカーが迫害されるのなんて必然じゃないか?」  確かにそうだ。  この時代になっても宗教上の対立はある。  にもかかわらず、シンカーとノーマルが互いに争うことがない。    朧月が学生だった頃、シンカーを気持ち悪いと言って虐めている生徒はいた。  だが、彼らが群れになってテレビで報道されるほど騒ぐことはなかった。  それは何故か。 「答えは簡単。一部のノーマルがシンカーに対する偏見やら怨恨を溜めこみすぎて自分がシンカーになるからだ。そうしたらどうなるかわかるよね?」  解答はあっさりしていた。  ノーマルが過激にシンカーを差別して、うっかり差別主義になった場合を想定すれば簡単である。  かつての味方が敵になるのだ。  敵もかつての迫害を忘れるわけがなく、当然見捨てるだろう。
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