第一章【邂逅】

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「つまり、差別する側も苦労するってことなんだよ。彼らは集団を作れない」  朧月は相槌を打った。  だが、内心ではこう思う。  本当に差別やら迫害やらをされるのはシンカーではなくノーマルではないのか。   「シンカーはノーマルの意志を嫌い、ノーマルはシンカーの能力を嫌う。朧月はノーマルの意志の弱さを否定しているわけだ。対してあちらの方は自分の考えを力任せに押しつける僕たちを弱い人間だと定義している」  面白いよね、と日下部は笑った。  どうやらドグマに関してかなりの興味と関心を抱いているらしい。 「結局、差別される側も差別しているんだよ。にも関わらず、学校の教育は常に差別される側の味方をする」  確かにその通りだ。  差別をする側も差別をされるし、差別をされている側も別方面で差別をしているのは当然のことである。    所詮は人だ。  立ち位置がどうであれ、考えることにさほど大差はないだろう。   「……ところで、話を戻すがユイの能力ってなにかわかるか?」 「うーん、平和主義が根底から否定されたけれど平和を求めている場合。あと平和主義だとしても、どのような事柄を平和というかによって変わってくるからね。間宮唯さんの在り方がキーになるんじゃない?」  平和に対する願い。  唯のドグマがなにを平和と判断しているか。  掲げた理想の行く末がどこなのかが問題になる。  さっきも似たようなことを聞いた気がする。  つまり、これ以上説明しようがないということだろう。 「ま、要するに相手に固定概念を押しつけなくていいんじゃないかってことだぜ。変わることは決して悪じゃない。だから無理に修正するんじゃなくて、唯さんを受け入れるのもいいかもしれないよ」 「受け入れる……変わったユイを」    苦虫を噛み潰すような表情をして呟く。  変化を即座に受け入れられるほど人間は柔軟ではないのだ。
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