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俺がこの教室に来るのは、今日が最後だった。
父の転勤と言う名目で、この町から出て行くことになった。
せっかくこの町でいい医者に巡り合えたが、母は父との関係を優先させることを選んだ。
先の事を思うと、気が重くなる。
そんなときふと頭をよぎるのは、サクラと話した記憶。
俺は固く、目をつぶった。
どうか、知らないで。
こんな世界があることを。
やってもやっても悪くなっていくばかりの世界があることを。
落ちていくしか選択肢がない人間がいることを。
ただ目の前にある、明るくて楽しい未来だけを見て生きて。
部活は大変だろうけど、ちょっと気が弱いけど性根が優しいからきっとどうにかなる。
冷たい机の上に、汗ばんだ、最後の花びらを落とす。
机に花びらが触れるまでのわずかな間、願い事をした。
どうか、この花びらが無くても笑っていますように。
そして、来年の春、また窓から花びらが机に落ちてきますように。
ふいに浮かんだあの笑顔を、俺は首を振ってかき消した。
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