第1話

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でも、練習が終わるころにはまたコートに戻っている。 背が高いから、他の選手よりも目をかけられているのだ。 練習が終わり最後の挨拶をする頃には、あの女子の顔は悔しさや不甲斐なさを押し隠すように強張ってしまっている。 そんな表情を一変、笑顔にする方法がひとつだけあることを、俺は知っていた。 また目の前の窓際の席に目を落とす。 この席はあの女子のものだ。 俺は毎日、この桜の花びらもどきをつくってはこの机の上にのせるという作業を欠かさなかった。 ただ、今日、これを机の上にこの“花びら”を置いてしまえば、もう何の接点もなくなる。 そう思うと名残惜しくて、花びら包んでいる手を握り締め、じっとその机を見つめた。 ※ 中学入学と同時にはじまった入院から復学したのが今年の春。 心のどこかで楽しみにしていた学校生活も、いざ始まってみれば味気ない物だった。
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