解けていく、音。

5/20
304人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  「そんな顔しなくたって、取って食おうなんて思ってないよ?」 「……別に、そんな、怯えてるわけじゃないけど……」  ふ、と。顔を傾けた流華さんの瞳が、余裕に満ちている。慌てるだけ、無駄だ。 「うん。見つけて、驚いて……持って帰った」 「やっぱり、そっか。あたしが迂闊だった」  流華さんは手元のカップに視線を落とすと、ふうと息をついた。 「ごめん」 「ううん、いいの。色々黙ってたあたしが悪いんだから……」 「……さなえさんからの手紙、ってそのまま言ったってことは、確信があったんでしょう? 俺だな、って」 「玄関に置きっぱなしの郵便物、バラバラになってたから。あたし、置きっぱなしにはするけど、揃えておく癖があって」  それって、迂闊なのは俺の方だったと思うけど。  そんなことにさえ気付かない程、あの時の俺は狼狽してた、ってことか。 「それに……」  流華さんは、持ったままのカップに口を付けることなく、ふっと笑った。 「ここに引っ越してきてからあなた以外、この部屋には誰も入ってないもの」  思わず、息を止めてしまった。馬鹿じゃないか、俺。  判っていたことを改めて口に出されたくらいで、嬉しい、とか思ってしまうなんて。 「……誰も?」  疑う気なんてさらさらないけど、とりあえず落ち着きたくてそう訊くと、流華さんは微笑んだままカップをそっとテーブルに置く。  結局口を付けなかった彼女も、少しは緊張していたのだとその動作で判った。 「だったら、なんであんなに簡単にあなたをここに入れたのか、って?」  俺が小さく頷くと、流華さんは頬杖をついてこちらを見上げる。 「……そうだな……どこから話したらいいだろ」  俺を見つめながら、流華さんはどこか遠い目をした。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!