重い瞼を開けてみよう。

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   そういうのを差し引いても、さっきの自然な態度は見事としか言いようがないけど。さっき愛美さんがそこに腰を下ろしたときに放った一言とか。  あの瞬間、額田先生が声をかけてくれなかったら──と考えると、ちょっと恐ろしい。  万が一思い余って愛美さんに襲い掛かったところで、額田先生がいるんだから、大したことにはならないけど……。  いや、それでも額田先生は助けてくれたと思う。  愛美さんと──俺を。 「……助かりました。うっかり顔合わせてたら、人として最低なことをするところでした」 「おいおい……」  額田先生は眉尻を下げながら、困惑をあらわにしつつ笑った。  だけど、俺は見逃さなかった。模範的な大人の表情をしながら、額田先生の瞳が楽しそうに輝いていたのを。  彼は隣のベッドに軽く腰かけると、面白そうに俺を見る。 「……蓮見は俺の後輩だぞ? 堂々と二股宣言とは、お前いい度胸してるじゃないか」  口ではそう言いながらも、額田先生のその目に俺を非難しているような感情は全く見当たらなかった。 .
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