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「お前さ、その分析力、自分のことに使ったら?」
「へ?」
「そのわりとよく回る脳ミソ、自分のことに使えって言ってるの。そうしたら念願の筆おろ……」
最後は、斉木の大きな手に口を塞がれて言えなかった。むにゅ、というその感触が気持ち悪くてじろりと斉木を睨み付けると、やつもハッとなって慌てて俺から手を離す。
「大きい声で言うなよ、馬鹿」
「……誰もいないのに、馬鹿じゃないの。ああ、気持ち悪い。男の手で口塞がれるとか最悪」
苦笑しながら、斉木も何気なくズボンで手を拭う。気分はよくないけど、そうしたい気持ちは判るので見なかったことにした。
「まあ、それはそれでいいの。俺は結婚するまで守るから。仁志くんみたいに不埒なことはしないんだから」
「……キモッ」
何だかまたオカマみたいな声を出す斉木に呆れて、俺はドアノブに手をかけた。さっきから寒さにも限度があるし。
「あ」
そのままドアを開けようとした俺を呼び止めるように、斉木が声を上げる。
え? と動きを止めると同時に、ドアが開かれる。
軽く手をかけていたから、思わず重心を持っていかれるところだった。
「あ? 何だ、またお前らか」
もう煙草を咥えていた額田先生が、そこに立っていた。
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