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あれだけ俺に甘えて、時にはすがり付いてすすり泣いていたのに──他の人と結婚とか、できてしまうもんなんだな。
恨み言ではなく、蔑みたいわけでもなく。女のひとというのは本当に何を考えてるか判らないものだな、と。
どんな心境なのか想像もつかないくらい、驚いただけだ。
ぽかーんとしている俺の頬を、額田先生が軽くぺちぺち、と叩いた。
「……あっ」
「あ、じゃないだろ。大丈夫か?」
顔を上げると、額田先生の心配そうな表情が映る。
熱を出して保健室に行ったときでもこんな顔はしないぞ、このひと。それが不満というわけじゃないけど、とても妙な気持ちになった。
額田先生は俺としっかり視線が合ったのを確認すると、すっと離れて行った。
「別に、ショックとかじゃないですよ。大丈夫です」
「……ならいいけど。蓮見はお前にはフラれた、って言ってたし」
「え、そうなの?」
背後の斉木が、ここぞとばかりに話に乱入してくる。
それを少し面倒に感じたけれど、ここにいる以上やつの耳に入るのは仕方がない。諦めることにした。
「振ったとか、そういうんじゃないですよ。これ以上続いてもお互い傷付くだけだって同時に気付いたから……」
「……ふ」
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