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普段はいちいちそんなことしないんだけど、やっぱり人を好きになったりすると、こういうことをしたくなるものなんだろう。そんなことを考えていると、小さく笑みが漏れた。
思い出せば胸の奥の方、俺の中で一番やわらかそうなその部分が少し疼かないでもないけど。
そのうち嫌でもその疼きさえ遠くなっていってしまうことは、もう知っている。
手繰り寄せたくて手を伸ばしたとしても、いつかはまったく届かなくなる。
そんなことをあえて知りたいと願ったわけではないけれど、欲しいと思ったものを必死に追いかけるうちに知り得てしまった余計なもの達を拒否するのは、ワガママが過ぎると思うんだ。
歩いているその過程で、目指していたものが思い描いていたものではなかったと気付かされても──それでも受け止めて、また何とか歩き続けるのが人生なんじゃないだろうか。少なくとも、俺のそれは。
随分遠いところまで思考が及んで、これは俺の悪い癖だと我に返った。
それにも何だかどうしようもなく頬が緩んで、俺は流華さんのアドレスのページのまま、メニューを開く。
“削除”、“はい”を続けてクリックして──俺の携帯から流華さんのアドレスが削除された。
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