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「俺は、西川さんが考えてるような、お綺麗なオトコノコじゃないから。周りにうまく合わせてるように見せてるだけで自分の好きなようにしか振舞ってないし、西川さんなんておかまいなしに流華さんと色々してたし、自分の気が済んで別れただけだから……本当に、関係ないんだよ」
俯く西川さんが、カバンをぎゅっと握り締めるのが見えた。
女の子を傷付けた瞬間をこうして目の当たりにしても、表面上の感情しかなぞれない自分がいて、何だかやっぱり諦めの境地になる。
……流華さんを泣かせたときみたいな疼きは、俺の中に見当たらなかった。
「……知ってたよ、そんなこと……」
俯いたまま、鼻にかかった声で西川さんがぽつりと呟いた。
「言ったでしょ、お姉ちゃんから聞いたって……私、知ってたのに……坂田くんが見た目のままの、優しくて穏やかなだけの男の子だけじゃないって、知ってたのに……」
ぱたぱた、と西川さんの足元に染みができる。
俺はそれを黙って見つめながら、西川さんの言葉の続きを待った。
だって、ひどいのは別に俺じゃない。この状況は、他人の領域の中に黙って踏み込もうとした西川さんが作ったもので、つまりは自業自得だ。
「そういう部分を私だけに見せて欲しくて、だから……」
ぐすっ、と鼻をすすりながらそう言った西川さんのジレンマが、そのとき手に取るように判った。
……どこか歪んだその感じが、やっぱりあのさなえさんとの妹だなぁ、と思う。
それって、間違いなく俺と似てるってことでもあるんだけどさ。
何だか肩の力がふっと抜けて、西川さんの長い髪をひとふさ摘んだ。
ビクリ、と反応した彼女を見ながら、俺は口を開いた。
「ごめん。こういうの、自分でもどうにもならないんだ。西川さんだって、身に覚えのある感情だろ?」
西川さんはゆっくりと顔を上げると、涙を拭いながらコクンと小さく頷いた。
「好きな女のひとの前でしか、そういう俺って出て来ないの。だから……ごめんね」
西川さんの目から、また大粒の涙が零れ落ちた。
そして彼女は、さっきまでとは違う意味でもう一度「ごめんなさい」と口にした。
それには、笑顔で頷いてあげることができた。
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