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朝靄の中、道路に照り返す光が眩しくて、目を細めてペダルを漕いだ。
今日から──というか、これからはたぶん卒業までずっと、俺はこいつを漕いでいくんだと思う。乗り物を電車に変えてまで、会いたい人なんてもういそうにないしね。
゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚
流華さんの顔は赤く染まって、何ならもう一度お願いしたって構わないくらい綺麗だった。
不埒な欲望がもう一度さざ波のように戻ってきて俺を支配しようとする前に、流華さんの身体を掛け布で包んだ。
とりあえずジッパーを上げてベルトを締める。毎回思うけど、この動作は証拠を隠すみたいだ。
いたたまれなくて、その場に座ったまま流華さんには背を向けた。
目の前のカーテンの隙間から、すっかり昇り切った陽の光がちらちらと映る。
もうだいぶ温度を失った季節の太陽の光には夏ほどの圧力はないから、ここまで伸びてくる力はないようだけれど。
それを見ながら息をつくと、畳の上についた手に、躊躇いがちに少し冷たい手が重ねられる。拒否せずにそのままにしていると、流華さんがゆっくり起き上がった気配を感じた。
「……あの……ひとつだけ話しておきたいんだけど……聞いてくれる……?」
少し、鼻声になっている。
泣いたせいか今までしていたことのせいかはよく判らなかったけど、どちらにせよ原因は俺だ。妙な反省をしながら俯いて、顎を引いてからうん、と答える。
流華さんはすん、と小さく鼻を鳴らすと、ぴくりとも動かない俺の手をぎゅっと握った。
「あの、仁志くんが見た……駅の、その……」
少しだけ振り返って見ると、流華さんは言いにくそうに自分の膝の辺りを見ながら、ぼそぼそと話し出していた。さっと顔を戻して、俺はそのまま彼女を見ないことにした。
「……仁志くんを一度、夜に連れ出したことがあるでしょ?」
「うん」
予想通りといえば、予想通りだった。
嘘をつくことが苦手だと自分で思っている流華さんは、きっとそうやって会話の中でぽろぽろと色んなことを落としていたんだろうから。
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